神戸市長田区にある「鉄人28号」のモニュメントは、どうやって姿勢を保っているのでしょうか。
今日は神戸市長田区の若松公園にある「鉄人28号」モニュメントの調査です。このモニュメントは、阪神・淡路大震災で被害を受けた長田区の「もう一度地域交流や産業振興を活性化したい」という願いを込めて、2009年(平成21年)に建設されました。神戸市出身の漫画家である横山光輝さんの作品『鉄人28号』をモデルとし、完成後は、長田区が特別住民票を交付するなど、町のみんなに親しまれる“新たな地域の顔”として人気を博しています。また、国内はもちろん、海外からの観光客もたくさん訪れる観光名所にもなっているんです。
このモニュメントは原作と同じスケールで作られており、高さはなんと15.3メートル。こんなに大きいのに、ワイヤーなどの支えは何一つ見当たらず、鉄人自ら力強く立っています。一体どうやって自立しているのでしょうか。
というわけで、鉄人28号の“強さ”を調べるために、当モニュメント誕生のきっかけとなった『KOBE鉄人PROJECT』プロデューサーの岡田誠司さんにお話を伺いました。生まれも育ちも長田区という、地元を知り尽くした岡田さん。元々は音楽家で、ライブハウスのプロデュースやラジオの番組づくりをされていたのですが、その時に培った著作権や建物に関する見識が評価され、震災後10年の節目に向けて発足したKOBE鉄人PROJECTのプロデューサーに就任しました。
5年間の構想の後、いよいよデザインコンペを実施。審査では、鉄人28号の男前度の再現性と強度の信頼性が重視され、選考の結果、フィギュア作家として著名な速水仁司さんの作品が採用されました。
設計書を見せてもらいましたが…ぶ、分厚い!設計書には、鉄人28号の図面や3D解析、実施設計や構造計算など、細かい数値がびっしり。設計・施工は、モニュメントづくりに実績のある北海製作所が担当しました。
構造設計で悩んだのは、やはり“どう自立させるか?”ということ。原作へのリスペクトを込めて実物大を作ることは決まっていましたが、大きくなればなるほど、その重さと態勢を支えることが難しくなります。当初の設計では、鉄人の重量は100トン、その重さを支えるには基礎の深さを地下6メートルまで掘り下げなくてはなりませんでした。しかし、材料を確保する上でもコストの面でも、現実的ではないということで、設計は最初からやり直しに…。最後は、鋼板の厚さを薄く調整し、重量を約1/2までスリム化しました。それでも、鉄人本体を支えるためには地面を2.6メートル掘り起こす必要があり、結果、基礎を作るためにトラック25台分ものコンクリートを使用しました。
このように、設計のステップからさまざまな紆余曲折を経て、ようやく施工が開始。施工を担当する北海製作所では、10人の専従スタッフがパーツを1枚ずつ手作業でプレス加工、230もの部品(!)を作り上げていきました。基礎と足の部分が出来上がった後は、背骨と胴体の両腕の構造部分、そして“鎧”となる胴体の鋼板取り付けと、次々に作業は進められました。
構想より約7年の時を経て、ついに鉄人28号が完成しました。セレモニーには、地元長田の皆さん、関係団体やメディアはもちろん、県内外からのお客さんがたくさん若松公園に来場。そしてなんと、昭和38年当時、敷島博士の声を担当されていた矢田稔さんがスペシャルゲストで来られ、「鉄人!28号!」のかけ声に合わせてテープカット。この式典のために特別に結成された「神戸鉄人合唱団」による「正太郎マーチ」を会場みんなで大合唱し、大盛況の中セレモニーは閉会しました。
今回の調査で、鉄人28号はその外観の通り、地面にしっかり足をつけて、自立していることがわかりました。
「基礎工事やメンテナンスもとても大切ですが、鉄人28号の一番強力な支えになっているのは神戸市民の愛情だと思います」と岡田さん。鉄人28号のいるこの広場は、完成から7年経った今でも神戸まつりの会場として、地元商店街による地域活性イベント、食や靴といった地元の産業とつながった催し、夏にはビアガーデンなど、さまざまな人たちによって多彩な行事に使われ、鉄人28号の周りは1年中多くの人々で賑わっています。
鉄人28号は、長田のシンボルとして地域の皆さんに愛されながら、今日も力強く立ち続けています。
出典:KOBE鉄人PROJECT