羽根から橋へ。捨てるしかなかった「風力発電機」のアップサイクル
再生可能エネルギー発電の代表として活躍している風力発電。その一方で、役目を終えた発電機がその後どうなるかご存じだろうか。
答えは、処分だ。巨大な風力タービンの羽根(ブレード)は生分解性がないため、埋め立てるか焼却するしかなかったのだ。世界中の風力発電機が次々と寿命を迎えるなか、持続可能な廃棄処理方法は各地で大きな課題となっている。
北アイルランドのクイーンズ大学ベルファストを中心とした「Re-Wind」研究・開発チームは、この問題に取り組み、風力タービンの羽根(ブレード)を橋やイスなどの有用な製品にアップサイクルするプロジェクトを進めている。
Re-Windプロジェクトチームは、風力タービンとして役目を終えたブレードを、歩行者や自転車用の遊歩道やカルバート(地中に埋設された水路)用の小さな橋として再利用できることを示した。
彼らが製作したプロトタイプの橋は、非常に高い耐荷重性能を持っていた。具体的には、設計時に想定された「安全使用荷重」が6トンであったにもかかわらず、この橋は34トンの荷重を支えることができたという。さらに、橋が34トンの重さを支えた際にも、橋の位置がわずか0.5ミリ以下しか変動せず、予想以上の強度と安定性を持っていることがわかる。
この強力な耐久性の秘密は、ブレードの素材にある。風力タービンのブレードの素材には、ガラス繊維強化ポリマー(GFRP)が使われている。この素材は高価で耐久性に優れ、20年~30年の繰り返し荷重に耐えられるほど強い。歩道橋の橋桁など、あまり荷重がかからないものに使用すれば、さらに60年は持つという。
アイルランド島では、2030年までに450基ものブレードが20年~25年の耐用年数を迎えるため、これをどう処理するかが喫緊の課題となっている。こうしたなか、Re-Windプロジェクトでは、2042年までに860万トンのブレードをなんらかの形で再利用できると予測している。
将来的にはブレードの数を2枚に増やし、橋の規模を拡大する計画もある。さらに、子どもの遊具、自転車用シェルター、路面家具、通信塔など、多岐にわたる用途でのアップサイクルを目指している。
現在、世界中でブレードを再生可能な素材に置き換える研究が進行中である。しかし、それと同時にすでに老朽化した風力発電タービンの廃棄処分問題にも対処する必要があり、このプロジェクトはその一環として、風力発電の持続可能性を向上させる取り組みだ。
本来、地球に優しいとされる風力発電において、埋め立てや焼却といった地球に負担をかける廃棄処理方法は、長らくのジレンマであった。Re-Windプロジェクトチームは、ブレードの強みを最大限にいかし、新たな有益な製品に生まれ変わらせる道を切り拓いている。
Text by 岩田 真奈
この記事は、2023年10月16日に書かれたものです。