スイスの研究者が考案した「紙とインクの電池」
植物性の素材を使用した雑貨や食品など、地球環境への負荷削減を目指してつくられたモノが近年増えてきた。そんないま、私たちの生活に欠かせない「電池」もそのひとつになるかもしれない。
スイスの研究機関「Empa」の研究者らは、紙とインクだけでできた「紙電池」を考案した。環境負荷を最小限に抑えることが期待された、新たな形の電池だという。
今回開発された紙電池は、生分解性の材料からできており、この紙を水に濡らすだけで通電するという。水を数滴垂らして活性化させることで、紙電池は1.2ボルトの電圧に達し(標準的な単三形電池は1.5ボルト)、液晶ディスプレイつき目覚まし時計の電源を1時間持続させることができるのだ。
この紙電池は、1平方センチメートル大のセルと3種類のインクが印刷された長方形の紙片によって構成されており、紙片全体には塩化ナトリウムが分散、一方の短辺とその付近に蝋を染み込ませているという。紙片の表面には電池の正極として作用するインクが印刷され、裏面には電池の負極として作用するインクを印刷。それぞれの印刷の上には第3のインクが印刷されており、これによって正極と負極が、蝋を染み込ませた部分に取りつけられた2本の電線とそれぞれ接続している。
研究者たちによると、紙電池は低消費電力のさまざまな使い捨て電子機器に利用可能なほか、従来の電池と比較して、環境負荷を最小限に抑えることができるという。また、インクに使用される亜鉛の量を調整することによって、電池の持続可能性と電力量をさらに高めることができる可能性も秘めているそうだ。
まだまだ改善点は多くあるようだが、私たちの生活を支えるひとつの基盤である電池が「紙」になれば、製造や処理の際の環境負荷を低く抑えることができるかもしれない。
「紙」と「電池」という一見交わりそうにないもの同士であっても、組み合わされば社会にポジティブな影響を与えるモノになり得る。あなたも、新たな視点からモノを捉えてみることで、社会をより良くする「新しい発見」を探してみてはいかがだろうか。
Text by 小松航大
この記事は、2022年10月11日に書かれたものです。