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6月
鏡で反射させた光をタワーに集約して、太陽熱を蓄熱し発電するタワー型太陽熱発電プラント「ヘマソラール」(出典:Torresol Energy developed by SENER cSENER)
グラフ1:世界の集光型太陽熱発電設備容量の推移(出典:自然エネルギー世界白書2015)
ヨーロッパ大陸の南西端イベリア半島に位置するスペインは、広く変化に富んだ国土を持ち、さまざまな個性を持つ17の州から構成される国です。今回の記事の舞台となるスペイン南部のアンダルシア州は、年中を通して温暖で雨の少ない「地中海性気候」に分類される地域で、ジブラルタル海峡を挟みアフリカ大陸に面しています。夏は40度を超える日もあり、季節によらずふんだんな太陽光が降り注ぎます。
欧州の中でもスペインは自然エネルギーの導入が進んでおり、すでに2014年の年間電力消費量に占める自然エネルギーの割合は42.8%に達しています。内訳としては、風力発電や水力発電が中心ですが、太陽光の活用(太陽光発電・太陽熱発電)も年間電力消費量のうちの7%を担っています。
太陽エネルギーの電力利用といえば、日本では太陽光を電気に変換する「太陽光発電」が知られていますが、スペインでは、集光ミラーやレンズなどで太陽の熱を集めて水を沸かし、その蒸気でタービンを回して発電する「太陽熱発電」の普及も進んでいます。太陽熱発電は、天候や風に左右される太陽光発電・風力発電に比べて発電量が安定しており、発電効率も太陽光発電よりも優れていることがほとんどです。一方、デメリットとしては、太陽光発電に比べて大規模な設備が必要となる点が挙げられます。たくさんの光を集中させないと高温にならないため、太陽熱発電には多くの集光ミラーが必要となり、広大な敷地面積を確保しなければなりません。
太陽熱発電には年間2,000kWh/㎡以上の日射量が得られる地域が適地とされています。赤道に近いサンベルト地帯(アフリカ北部・中東・アメリカ南部など)が該当しますが、「太陽の国」と呼ばれるスペイン南部も条件が揃った好適地です。アンダルシア地方ではこの恵まれた環境をいかし、早くから大規模な太陽熱発電所の設置を推進してきました。その結果、2014年時点では、スペインにおける集光型太陽熱発電の設備容量は世界合計の約半分に相当する2.3GWに達しており、他の国々を大きくリードしています。
太陽熱発電とは、レンズや鏡、反射板などのミラーを用いて太陽光を集め、その熱で水を蒸発させ、蒸気タービンを回転させて発電する仕組みです。発電の原理は火力発電と同じですが、熱をつくるために燃料を燃やすのではなく、太陽熱を利用します。このシステムにはさまざまなタイプがありますが、スペインで主流なのはトラフ型・タワー型と呼ばれる2つの方式です。
トラフ型は、雨どい(トラフ)のような形をした半円状のミラーを利用して集光するタイプです。ミラーの構造が比較的単純なので製造コストが安いのが利点ですが、タワー型に比べて集光できる太陽光の量が限られるため、発電効率はやや悪くなります。米国では1980年代から稼働しており、世界における太陽熱発電プラントの9割はトラフ型が占めています。
これに対してタワー型では、中心に集光用タワーを設け、その周辺に多数の集光ミラーを同心円状に並べるという構造をとります。タワーに向けて太陽光を集め、その熱で蒸気をつくってタービンを回し、発電します。多数の追尾型ミラー(ヘリオスタット)からの反射光をひとつのレシーバーに集めるため、トラフ型よりも集光度が高く、高温の蒸気を作り出すことができるため、より多くの電力を得ることができるのです。
さらに、トラフ型・タワー型共に、溶解塩などの熱媒体を用いた蓄熱によって、昼間だけでなく、陽のささない夜間にも発電できるタイプが開発されています。水より冷めにくく、熱を蓄える塩を活用して蓄熱し、夜間にも発電するというものです。太陽光発電では「光」を保存しておくことはできませんが、太陽熱発電の場合、「熱」を保存することができるため、昼間に熱を蓄えておくことで、夜間にその熱を使用して発電できるという利点があります。
トラフ型太陽熱発電システム(出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「NEDO再生可能エネルギー技術白書(第2版)」)
タワー型太陽熱発電システム(出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「NEDO再生可能エネルギー技術白書(第2版)」)
アンダルシア州では、グラナダのアルハンブラ宮殿近くに、欧州初のトラフ型太陽熱発電所「アンダソル(Andasol)」が建設され、2008年から発電を開始しました。発電所内では、幅18フィートもの巨大な曲面鏡が日中、東から西へと角度をゆっくり変えて太陽の動きを追跡しています。曲面鏡の中心にあるパイプで熱されたオイルが蒸気発生器に送られ、そこで生まれた蒸気によってタービンが回転し、電気がつくられます。アンダソルにある3つのプラントはそれぞれ50MWの発電出力を持ち、合計で年間発電量は約180GWh(一般家庭9万世帯分)にも及びます。
一方、同州では、2011年に新型のタワー型太陽熱発電所「ヘマソラール(Gemasolar)」が運転を開始しました。この発電所の最大の特徴は、蓄熱機能をフル活用し昼も夜も発電できる点です。ヘマソラールでは、195ヘクタールの敷地に円形状に配置された2600枚の反射鏡が、追尾装置(ヘリオスタット)によって140mのタワーの上に太陽光を集めます。タワーに集まる光の強さは地球に届く太陽光の1,000倍にもなり、溶融塩の温度は500℃を超えます。そして、この熱で蒸気を作り、タービンを回し、昼夜を問わず発電を続けています。ヘマソラールの年間稼働時間は6400時間と大変長く、エネルギー貯蔵機能を全く持たない太陽熱発電所に比べ60%以上も多くのエネルギーを生産することができます。
スペインでは、年間電力消費量の約4割を変動幅の大きい自然エネルギーによる発電で賄っていますが、それをスムーズに電力システムと連携するのはスペイン全土にまたがる送電会社「リー(REE)」社の発電予測システムです。REE社は、スペイン全土の送電網を管理し電力需給のバランスをコントロールしていますが、その核となっているのが再生可能エネルギーのコントロールセンター「セクレ(CECRE)」です。ここでは、詳細な気象予報に基づいて風力や太陽光・太陽熱などの2日先までの発電予測データを集め、変動する自然エネルギーを最大限に活用できるように調整し、スペイン全土の電力システムと統合します。例えば、電力が不足する場合は火力発電などにより補い、発電量が多すぎる場合は抑制を行うなど、きめ細かい出力調整を行っています。
このような先進的なシステムが世界からの注目を集める一方で、スペインのエネルギー政策には大きな課題もあります。スペインでは、想定を大きく上回る急速な再生可能エネルギーの普及によって、固定価格買い取り制度(FIT)による政府や電力会社の財政的負担が膨らんでしまいました。現在はそれを削減するため、新規発電事業所に対するFITを一時ストップしており、太陽熱発電所の拡大にもブレーキがかかっています。国としては、需給のバランスや負担コストなどを見据えたきめ細やかな政策により、今後も適正な設置や技術の進化を後押しすることが求められています。
現在も、太陽熱発電は、中東や北アフリカ、米国やインド、オーストラリアなど、日射量に恵まれた国で導入が進められています。最近では、モロッコで世界最大規模の太陽熱発電所「ノア1」が発電を始めました。完成時の総出力は500MWを超え、同国の人口の約3%にあたる100万世帯分の電力を供給できる予定とされています。全世界における太陽熱発電の累積導入容量は2014年末時点では4.4GWに留まりますが、建設・計画中の容量も含めると5倍弱の約20GW*1と見通されています。今後も、サンベルト地帯を中心に太陽熱発電はますます大型化し、発電量も拡大していきそうです。
REE社の発電予測システム(出典:Red Electrica de Espana)
*1 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「NEDO再生可能エネルギー技術白書(第2版)」
Word:Yayoi Minowa