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9月
ギュッシング市の小高い丘の上にそびえたつ、12世紀に建てられた古城と、取り囲むように密集する集落。(© imageBROKER ⁄ Alamy)
オーストリアの東の端、ハンガリーに隣接するブルゲンランド州にあるギュッシング市は、人口4,000人の小さな田舎町。豊富な森林資源を活用することで、いち早くエネルギーの自立に取り組み、財政を大きく立て直しました。現在、その成功は年間3万人以上の視察者が訪れるほど国内外で高い注目を集めています。
1980年代まで鉄道や高速道路といった交通網が整備されていなかったギュッシング。農業は廃れ、広大な森林が広がるも林業は発展せず、目立った産業はありませんでした。住民の多くはウィーンなどの都市部への出稼ぎを余儀なくされ、当時は「オーストリアで最も貧しい町」と言われるほどでした。
そうした状況を打破するために行われた調査で明らかとなったのは、灯油、電気、ガソリンなど高額のエネルギー費用が他の地域に支払われていたということ。もしエネルギーの使用量を減らし、使用するエネルギーも地域の資源でつくり出すことができれば、エネルギー費用が他の地域に流出せず、地域の中で経済を循環させることができます。そこで市議会は1990年に町がもつ森林資源などを使ってエネルギーをつくり出す方針を固めました。
地域の45%を占める、広大な森林。(Christoph Sammer)
エネルギー費用削減のために真っ先に行われたのは、市が所有するすべての建物での節電や断熱強化といった省エネ対策でした。これらはすぐに効果を発揮し、民間の建物へもその取り組みが波及。各施設で断熱改修が行われ、町のエネルギー支出を半分にカットすることができました。
次に市が取り組んだのは、地域に豊富にある「森林資源」などをバイオマス*1として活用し、熱や電気を自分たちで作り出すことでした。樹木の伐採で出る枝や間伐材、製材時に出る木くずや樹皮、麦わらや牧草地の草など、これまで有効活用されてこなかった資源を役立てることにしました。1992年には、木質バイオマスを燃やしてつくった熱を、35kmにもおよぶ熱配管を通じて各家庭に供給する地域暖房を開始。さらに2001年には、木質バイオマスで、発電も行うコージェネレーション設備を開発、運営するようになります。こうした取り組みは着実に成果を発揮。町が消費するエネルギーのほぼすべてを、自分たちが持つ資源で生み出す再生可能エネルギーでまかなえるまでになりました。
市で一番有名な木質バイオマスプラント。電熱併給型のガス化発電を行い、市内地域暖房を担う設備です。(Wikipedia Gerfriedc「Holzvergaser Gussung 2006 eigene Aufnahme」)
さらに地域を活性化させるため、企業誘致にも力を入れるようになります。地元のバイオマスでエネルギーを産み出すギュッシングでは、企業に安価でエネルギーを提供することができます。さらに、地域暖房の燃料源として、企業活動で出る木屑や端材の買い取りも提案しました。こうしたメリットを最大限に活かすことで、大手フローリングメーカー2社をはじめ、なんと50社にもおよぶ企業の誘致に成功。結果的に町の人口の4分の1にあたる1,000人以上の雇用を生み出すという大きな成果をあげることができました。さらに、町の税収は1992年から2009年の間に4.4倍にまで増加しました。また、手入れがされていなかった地域の森林も現在では、年間4万トン以上もの木々が適切に活用されています。経済的なメリットだけでなく森林の整備にも大きく貢献したギュッシングの木質バイオマス活用。地域の資源を柱に、循環型の地域経済をつくりあげたギュッシングの地方再生策は「ギュッシング・モデル」として、広く知られることとなりました。
ギュッシングの周辺では、15の自治体が「エコ・エネルギーランド」連盟を結成し、エコツアーなど環境をテーマとした観光も人気に。(Thomas)
ギュッシングでは、2001年にウィーン工科大学と木質チップのガス化プラントを共同開発。バイオマスからガスやオイルなどの燃料をつくるまでに発展しています。
こうした技術の進化に重要な役割を果たしているのが、1996年に設立された「欧州再生可能エネルギーセンター(EEE)」です。「EEE」は、プラントの設置や研究開発、研修、コンサルティング、エコ・エネルギーツアーなどをサポート、実施する機関。ウィーン工科大学をはじめ、国内外の研究機関とのパイプ役も「EEE」が務めることで、ギュッシングのエネルギー技術がさらなる進化を遂げることとなりました。現在注目されているのは、木材から生み出される自動車用のバイオ燃料。ドイツの大手自動車メーカーの他、航空機メーカーもパートナーになって、この次世代燃料の研究が日々進められています。
私たちが暮らす日本も国土の約7割に森林を持つ、オーストリアを上回る森林資源保有国です。かつては建材をはじめ、炭や薪としてエネルギーにも利用されていましたが、安い輸入材が入ってきたことで、木材価格が低下し荒廃する山が増えてきてしまいました。 地域資源でエネルギーをつくり、経済を循環させる「ギュッシング・モデル」。遠いオーストリアの地で生まれた地域再生のアイデアは、過疎化に悩む日本の山村にとっても大きなヒントとなりそうです。
ギュッシングは「EEE」を通じて、自治体および地域向けエネルギー開発構想のノウハウを世界中に発信。(©Takigawa⁄Wassmann)
(©Takigawa⁄Wassmann)
*1 再生可能な、生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)のこと。家畜排せつ物、食品廃棄物、建設発生木材、製材工場残材、下水汚泥等の廃棄物系バイオマスや、稲わら・麦わら・もみ殻等の未利用バイオマスがある。
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