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7月
島の周辺には風車が約500基あり、電気のほとんどを再生可能エネルギーで自給している(Franklin Heijnen)
見渡す限りに広がった平らな大地、海岸線や農地に並ぶ風車の数々……。デンマーク南部に位置するロラン島は、沖縄本島と同じくらいの面積に約65,000人が暮らす島。風力発電でこの島のエネルギーを支える風車は個人所有のものが多く、「エネルギー自給率500%の島」*1としても知られます。
また、この島では風力発電だけでなく、水素やバイオマスといった新エネルギーの活用にも積極的。自然エネルギーの先進基地として世界中から注目を集めていますが、そんなロラン島でも、すべてが順風満帆に進んできたわけではありませんでした。
日本がオイルショックに見舞われた1970年代、デンマークでも石油価格が高騰し、経済が混乱に陥りました。その頃のデンマークのエネルギー自給率はわずか2%*2。日本よりもその水準は低く、主要なエネルギー源である石油や石炭のほぼすべてを海外からの輸入に頼っていました。
ここロラン島でも、主産業だった造船業が衰退し失業者が増加。財政が大幅に悪化した島は、原子力発電所建設地の候補にあがります。しかし、デンマーク政府は、市民の声を聞きさまざまな角度からエネルギー政策を検討した結果、1985年に新たなエネルギー計画を選択し、ロラン島も自然エネルギー活用への道を歩みはじめることとなりました。
平坦な土地に豊かな実りをもたらす畑が広がるロラン島の風景 (Lars Plougmann)
新たなエネルギー計画で、島の経済を立て直す。 そのための鍵は、島に安定して吹く風を利用した風力発電でした。
この方針が決まった1980年代後半から、デンマーク政府は風車の建設予定地に暮らす人が風力発電に投資しやすくしたり、電力を国が固定価格で買い取るようにするなど、風力発電が市民に定着するための政策を推進していきました。その成果もあり、市民が共同で風車を運営する組合が次第に設立されるなど、風力発電が島全体に浸透。また、自分の土地に「マイ風車」を建設する人たちも現れます。農地の一角に風車を建て、作物と同じように電力を市場に売ることで、副収入を得る人も増えていきました。
1991年になると、島の周辺に、世界ではじめて大型の洋上風力発電パークが建設され、発電量が大幅にアップします。また、1998年には、風車のブレード(羽根)を製造する大規模工場の誘致にも成功。こうして風力発電が島の経済と雇用を支える大きな柱になりました。
デンマーク全体を見渡してみても、風車の半数以上が、個人または市民が参加する協同組合の所有物です。デンマーク政府の積極的な政策もさることながら、その土地に暮らす人たちが風力発電の利益を直接得ることができることが、その普及を後押ししているようです。
風力発電のメンテナンスをする職業訓練校も島に開校(minowa)
天候によって左右され、出力が安定しないことが課題ともいわれる自然エネルギー。ロラン島でも、風がたくさん吹いた日には余剰電力が生まれます。そこで着目したのが、水素を使って電気を貯めるアプローチでした。
ロラン島最大の町・ナクスコウから南へ約5km、ヴァステンスコウという小さな町に、一般住宅35軒が参加する世界初の水素コミュニティーがあります。
ここでは風力発電の余剰電力で水を電気分解し、水素を製造。パイプラインで水素の供給を受ける各家庭には、小型の燃料電池(マイクロCHP)*3が設置されており、風が吹かない日も電気や熱を利用することができます。
また、この町では、水素エネルギーの導入だけでなく理解促進に力を入れています。2007年の実証実験スタートにあたっては、水素を身近に感じ、正しく理解してもらうために、ここで暮らす人たちに向けてさまざまなデモンストレーションが行われました。
町の近くには、水素について学べる施設もあります。「H2 Interaction」と名付けられたその施設では、ゲーム形式で水素の製造過程や発電の仕組みを学ぶことができ、子どもはもちろん大人も楽しみながら理解を深められます。
風力の電気で水を電気分解して水素をつくる「水素発生装置」と水素を貯蔵する「水素タンク」(NPO法人R水素ネットワーク)
水素について楽しく学べる施設「H2 Interaction」(minowa)
ロラン島には「ロランCTF(Lolland Community Testing Facilities)」というシステムがあります。これは、エネルギーや環境分野での実証実験の場を、自治体が民間企業や大学に提供するという取り組み。ロラン島で新たなエネルギー活用が着実に進んでいくのは、こういった「最先端のエネルギー技術を一緒に育てていこう」という姿勢も後押しをしているようです。
今後、ロラン島では1万軒の家庭への小型燃料電池の導入や、水素電解装置*4を内蔵した次世代型燃料電池の開発などを予定しています。さらに、風力・水素以外にも、ロラン島の港や堤防に生息する藻を「ブルーバイオマス」としてエネルギーや肥料に活用する実験も、すでにはじまっています。
かつては経済の低迷から「デンマークのお荷物」とも言われたロラン島。しかし、この島に吹く「風」を利用したことがきっかけで、その状況は大きく変化しました。現在では、余ったエネルギーを他の都市に供給し、水素やブルーバイオマスの実用化を進めるまでに。もはや島全体が「最先端の自然エネルギー研究基地」となっているロラン島から、ますます目が離せません。
*1 ロラン島の年間の発電量は、島で必要な電力量の5倍、2,500ギガワットを発電(2011年)
*2 デンマークEnergistatistik98 より
*3 水素と酸素を反応させて水ができる過程から、電気と熱を取り出す仕組み
*4 電気から水素を生成する仕組み
参考資料 「ロラン島のエコ・チャレンジ」野草社 北村朋子著
「ロランCTF」を推進する、ロラン市議会議員レオ・クリステンセン氏 (minowa)
Word&Photo:yayoi minowa