町のために働く妖怪がいる!?
福崎町の河童を調査
2025/10/06

兵庫県福崎(ふくさき)町には、日本一の勤労河童(かっぱ)がいると聞きました。河童が町にいて働いているということでしょうか?いったいどんな仕事をしているのか、とても気になります。探偵さん、ぜひ調査をお願いします。
日本一の勤労河童の仕事を調べるために福崎町へ
妖怪である河童が働いている姿は探偵もまったく想像できません。河童といえば、頭にお皿があり、キュウリが好きな「妖怪」として知られていますが、そもそも河童って本当にいるのでしょうか?さっそく調査してみましょう!
依頼者の情報を頼りに、まずは福崎町役場に連絡をとり、「日本一の勤労河童」について何か情報をお持ちでないかたずねてみました。すると「それはきっと、ガジロウのことですね。福崎町に来ていただいたら、会うこともできますよ。よろしければ、ぜひお越しください」との返事をいただきました。
日本一の勤労河童は実在し、「ガジロウ」という名前まであるようです。働く河童を調査するために、現地に向かいました。
大阪から中国自動車道を経由して車で約90分。福崎町役場に到着です。

ガジロウの驚くべき仕事とは!?
福崎町役場で出迎えてくれたのは、地域振興課の髙橋さんです。
「ようこそ、福崎町へ。ガジロウについてなんでも聞いてくださいね。まずは直接会っていただきましょうか。呼んでくるので、少し待っていてください」。
さっそくガジロウに会えるのですか!?
「会える」とは聞いていましたが、町役場でとは思っていなかったので、まだ心の準備ができていません。
ドキドキしながら待つこと数分、全身が赤黒い色をした何かがノソノソと歩いてきました。もしかして、あれがガジロウ……?
目は黄色で大きな口からは鋭い歯がのぞいています。思わず「わッ!」と声が出てしまいました。
「お待たせしました。こちらが河童のガジロウです」と髙橋さんが紹介してくれました。

体長165cmはあるガジロウの迫力に、思わずあとずさりすると、「怖がらなくても大丈夫ですよ(笑)。見た目は怖いですが、やさしい心を持っていますから」と髙橋さんは笑顔で説明します。
日本語が通じるのかな……?と緊張しながら「ガジロウさん、はじめまして」とあいさつしてみると、ガジロウは手を振ってくれました。
「ガジロウは話せないので、手を振ってあいさつするんですよ。立ち話もなんですから、庁舎で詳しくご説明しましょう」。
するとガジロウは「自分についてきて」というような手振りをしました。どうやら部屋まで案内してくれるようです。
二足歩行で、ペタペタと足音を立てながら階段を器用にのぼっていきます。

「階段ものぼれるんですね」と声をかけると、ガジロウはくるりとふり返り、大きくうなずきました。なんだか得意げに返事をしてくれたように見えて、かわいいです……。
2階の会議室に案内されると、「ガジロウとはここでお別れです」と髙橋さん。
え、もうお別れなんですか?残念です。
「案内してくれてありがとう」とお礼をいうと、ガジロウは手を振って去っていきました。
髙橋さん、あらためてよろしくお願いします。河童が町にいて、町役場にも出入りしているなんて、とても驚きました!見た目がかなり怖いので、突然すれ違ったら、その場で固まってしまうかもしれません。
「最初は皆さん驚かれます。でも、慣れてくると、だんだんとかわいく見えてきますよ。今では福崎町の人気者なんです」。
怖い見た目なのに町の方々に人気なんですね。そもそもガジロウって、どんな河童なのですか?
「ガジロウは、2014年2月に福崎町が辻川山(つじかわやま)公園の池で捕獲したオスの河童です」。

捕獲される前のことは、何かわかっていますか?
「いえ、不明なんです。ただ、福崎町は日本民俗学の父と呼ばれる柳田國男のふるさとで、柳田氏の回顧録『故郷七十年』に、ガジロウの兄であるガタロウについての記述があります。本での表記は『ガタロ』となっていますよ。そこから考えると、柳田氏の幼少期である1880年ごろに、河童は福崎町にいたのかもしれませんね」。
なるほど。そんなガジロウは「日本一の勤労河童」と呼ばれていると聞きました。
「はい。私たちが捕獲してから、福崎町のご当地キャラクターとして一生懸命に働いてくれています。年中無休で仕事をしているので、『日本一の勤労河童』と呼んで応援することにしました」。

年中無休!?ずっと働き続けているのですね。ガジロウは具体的にどんな仕事をしているのでしょうか?
「2014年からおこなっているのが、辻川山公園にある池から顔を出して、人を驚かす仕事です。毎日9時から18時まで15分おきに休まず働いてくれていますよ」。
ええ!?人を驚かすのが仕事なんですか。しかも15分おきに休まずなんて大変ですね。
「そうなんです。ガジロウは人を驚かせることにやりがいを感じていて、積極的に仕事に打ち込んでいるんですよ。でもほとんどの方は、驚くというより喜んでくださっていますね(笑)。驚くのは、やはりお子さんです。特に小さなお子さんは泣き出してしまうこともありますよ」。
ガジロウの姿は非常にインパクトがありますから、子どもが泣いてしまうのもわかる気がします。
あれ?でも、さっきまで福崎町役場にいましたよね?それなのに今も公園で働いているのでしょうか?
「はい。ガジロウは今も休まずに公園の池で働いていますよ」。
町役場にいながら、いったいどうやって15分おきに池から顔を出し続けているのでしょうか。移動がとっても早いんですか!?
「気になりますよね。『なぜ町役場にいたのに、公園でも仕事ができるのか』という秘密もあとでお教えしますね。まずは実際に辻川山公園で働いているガジロウを見に行きましょう!」。
ガジロウ目当てに、人が集まる辻川山公園
福崎町役場から車で約5分。辻川山公園に到着しました。多くの人でにぎわっています。
あっ、入口にガジロウの巨大な顔のオブジェがありますね!
「あれはオブジェではなく、『ガジロウスライダー』というローラーすべり台です。ガジロウの顔の中をすべるんですよ」。

ガジロウスライダーを右手に見ながら、公園の中を少し進むと、池が見えてきました。すでに、多くの人が池をのぞきこんでいます。
皆さんがのぞきこんでいるのは、ガジロウが顔を出す池でしょうか?
「そうです。多くの方が、ガジロウが顔を出すのを待っているんですよ」。

水面はとてもおだやかです。今のところガジロウの姿はまったく見えませんね。
「そろそろ仕事の時間です。探偵さん、まもなく池に変化があらわれますよ」。
髙橋さんが話して間もなく、急に水面にブクブクと泡が出てきました。さらにゴボゴボと音もしはじめました。
小型バイクのエンジンくらいの音がします。あっ、池の中央に何か見えてきました!
「あれはガジロウの頭のお皿です。いよいよ出てきますよ!」。

次の瞬間、池の中央からザバッとガジロウが顔を出しました!

水に濡れてヌメっと輝く皮膚やギョロッとした黄色い目が、怖さを引き立てています。あまりの迫力に、探偵は思わず体がビクッとなってしまいました。
見ている方々は歓声をあげながら、写真や動画を撮影しています。なかには「怖い!」と叫び、逃げようとする子どももいます。
数秒後、ガジロウは再び池の中へ戻り、人々は拍手で見送っていました。
突然あらわれるガジロウのインパクトは強烈ですね。「池から顔を出す」と聞いていても、ビックリしちゃいました。
「ガジロウの働きぶりを体験していただけてよかったです」。
何回でも見たくなりますね。ガジロウを見ようと多くの人が集まっていて、本当に大人気だとわかりました。
「県外からもたくさんの方にお越しいただいています。ガジロウのおかげで福崎町を訪れる人も年々増加しているんです」。
池から顔を出して人を驚かすガジロウの仕事が、町おこしにもつながっているんですね。
公園以外でも仕事をするための特技とは!?
あれ?池のほとりにも何かいませんか?
「お気づきになりましたか。あれが、先ほどお話した兄のガタロウです。お皿が乾いてしまって動けなくなり、池のほとりで固まっているんですよ」。

すると突然、ガタロウの横にガジロウがあらわれました。

これはどういうことなのでしょう!?ガジロウが池の中にもいますし、今はほとりにもいます。ガジロウって2匹いるのですか?
「いえいえ。池の中にいるのが本体のガジロウで、今、池のほとりにいるのは、“幽体離脱”したガジロウです」。
幽体離脱!?詳しく教えてください。
「ガジロウは池から顔を出して人々を驚かす仕事をしていますが、ときどき幽体離脱して、池の外に飛び出すことがあるんです。『別の仕事もしたいけれど、池の仕事をサボるわけにはいかない……』と編み出した特技です」。
ガジロウの仕事に対する情熱を感じますね。今日はなぜ幽体離脱しているのでしょうか?
「探偵さんが調査に来られたので、特別サービスをしてくれたみたいです。実は、先ほど福崎町役場で会ったときも幽体離脱の状態だったんです」。
「役場にいながら、同時に池でも仕事ができる秘密」というのは、幽体離脱のことだったんですね!幽体離脱ができるようになり、仕事の幅がさらに広がったと思いますが、具体的にどんな仕事をしているのか気になります。
「地元のさまざまなイベントに参加していますよ。たとえば、JR播但線の福崎駅で一日駅長を務めましたし、福崎町の夏祭りでは特技のギターを演奏して観客を盛り上げました。また、北海道や東京、大阪などに出張して撮影会やサイン会も開催しています。全国的にも知名度が高まり、2024年に開催された『きもキャラグランプリ』では優勝しました!」。



特技のギターでお祭りを盛り上げたり、全国各地に出張したりと、すごい働きぶりですね。まさに「日本一の勤労河童」というフレーズがぴったりです。
「しかも、これまで説明した以外にも続けている仕事があるんですよ。それが、福崎駅前でのお出迎えです。次は福崎駅に行ってみましょう!」。
辻川山公園と福崎駅をつなぐ秘密の通路!?
辻川山公園から車を運転すること約5分。福崎駅に着きました。
「あちらをご覧ください」と髙橋さんが指さすほうを見ると、円筒状の大きな水槽があります。水槽に近づき中を見てみると、水しか入っていません。
あれ、なんだかブクブクと泡が出てきましたよ。あっ、ガジロウだ!
なんと、水槽の下から「ようこそ ふくさき 江」と書かれたボードを持ったガジロウがゆっくりと出てきました。

「これはガジロウチューブといって、2019年10月に設置しました。水槽の下からガジロウがあらわれて、訪れる人を年中無休で歓迎しています。出てくる時間は7時7分から20時7分までの毎時7分・22分・37分・52分となっていますよ」。
ガジロウチューブも非常にインパクトがあります。訪れる人もガジロウに出迎えられると、よい旅のはじまりになるでしょうね。出てくる時間が7分や22分というのには何か意味があるのでしょうか?
「実は、辻川山公園の池とガジロウチューブは秘密の地下トンネルでつながっています。池で顔を出したガジロウは、急いで地下トンネルをとおってガジロウチューブに移動し、歓迎の仕事をしているんです。歓迎を終えたら、また急いで公園の池に戻り、人々を驚かせています。だから公園で顔を出す時間とずれた時間帯になっているわけです」。
公園の池で顔を出していないときも働いていたのですね。池と駅を往復しているということは、ガジロウチューブのガジロウは幽体離脱の状態ではなく、本体が行ったり来たりしてがんばっているのですね。
「はい。幽体離脱は、あくまでも特別なイベントのときだけです。公園の池と駅前のガジロウチューブでは、一年中ガジロウに会えますよ」。
日本一の勤労河童とは、年中無休で働き続ける「ガジロウ」のことで、その仕事は、人を歓迎したり、驚かせたりすることでした。
近くに行かれた際は、毎日、分刻みのハードスケジュールで仕事をしているガジロウに会いに行ってみてください。

- ※この記事は2025年9月1日時点の情報をもとに掲載しています。
