イギリス
vol.36
国連の専門機関である国際海事機関(IMO)の調査によると、2012年時点における国際海運全体からのCO2排出量は約8億トンであり、世界全体のCO2排出量の約2.2%を占めたという。同機関は2018年に「GHG削減戦略」を採択し、2050年までに2008年比で温室効果ガス(GHG)排出量を50%以上削減し、今世紀中に排出ゼロにすることを目標として掲げている。この目標達成に向けて、どのような技術開発がおこなわれているのだろうか。
現在、船舶における代替燃料の活用や風力推進など、さまざまなGHG削減技術が検討されており、そのひとつとして空気潤滑システム(ALS)も注目されている。空気潤滑システムとは、船底を細かい気泡で覆うことにより、船体と水の抵抗を減らし、燃費を向上させる技術のことだ。たとえばイギリスの企業「Silverstream Technologies(シルバーストリーム・テクノロジーズ)」が開発した空気潤滑システムは、運航中の燃料消費量を5~12%削減することができるとしている。
英国国際通商省は、同社にネットワークづくりなどの支援を提供し、グローバル市場における技術イノベーションを促進している。Silverstream Technologiesはこれまで、米客船会社のカーニバル・クルーズ・ラインや、伊海運会社グリマルディ・グループなどとの契約を獲得したという。脱炭素化が難しいと言われる海運業界では、こういったGHG削減技術の積み重ねが重要になってくるのではないだろうか。
イギリスにおける海事セクターの統括組織である「Maritime UK」によると、海運は世界貿易の90%を担う産業であり、同国の貿易の95%を占めているという。そのため、空気潤滑システムのようなグリーンテクノロジーが普及するチャンスは多くあるだろう。
空気潤滑システムの実現可能性は、2020年に一般財団法人日本船舶技術研究協会などが公表した「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ」でも言及されており、燃費効率を2~6%程度改善できる可能性があるとしている。この技術は、船が浮いているときの船底から水面までの距離が短い浅喫水船では省エネ効果が大きいものの、距離が長い深喫水船では効果が小さいという課題があるそうだ。
日本では国土交通省が、GHGを排出しない「ゼロエミッション船」の2028年までの商業運航を目指している。今後、空気潤滑の技術も含め、エコな船をめぐる動きが活発化しそうだ。
Text by 木村つぐみ
参照元: Silverstream Technologies
この記事は、2021年7月5日に書かれたものです。