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7月
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グラフ1 世界における国別洋上風力累計導入量
出典: Global Wind Report 2014
世界の洋上風力発電は近年、急速に拡大しており、2013年・2014年の導入量は各150万kWを超え、プロジェクトの大型化も進んでいます。2015年までの導入実績はイギリス・デンマーク・ドイツの3ヶ国で世界全体の78%*1を占めていますが、中でもイギリスの導入量は他を圧倒し、2位のデンマークと比べても約3倍の規模があり(グラフ1参照)、世界でも最先端の洋上風力発電所が続々と運転を開始しています。 洋上風力発電はその名のとおり、ブレード(羽根)を洋上に設置することによって海上の風を受け、その風でタービンを回して発電するシステムです。陸上より風力が強くて安定しているため、発電量の多い点が大きなメリットです。一般的に、発電量は風力の3乗に比例し、風の強さは発電量に直結します。さらに洋上のため、敷地の制限が少なく、周辺への影響も少ないとされ、大規模風力発電所を建設できることも発電量が拡大している理由のひとつです。 洋上風力発電は、1990年にスウェーデンの洋上風力発電所が本格的稼働を始めたのを皮切りに、デンマークなどでも大型の洋上風力ファームの設置が相次ぎました。そんな中イギリスは、北海原油や石炭資源などの豊富な国内資源に恵まれていたことから、他国と比べ遅れをとっていました。しかし、それらの資源も無尽蔵ではないことから、政府は2000年初頭より新たなエネルギーとして再生可能エネルギー、特に洋上風力発電に注力する政策を推進しました。 洋上風力発電が推進された主な要因には、イギリスが島国であり、海岸線が長く比較的浅い海域が広がっているため発電機を設置しやすいことと、北海や大西洋に囲まれ偏西風による安定した風量を得られることが挙げられます。 政府は、この政策を推進するにあたって、発電施設の建設に関する法的枠組みを整え、開発できる海域の特定や経済的促進策など、多岐にわたって政策基盤を整備しました。ここで特徴的なのは、これらの事業の一部に王室も関わっている点です。新たに洋上風力発電の設備を作る際、設置する大陸棚の所有権が王室の場合があります。その場合、王室の財産管理を行う政府の特殊法人の許可が必要となっており、同時に、海域の利用に伴うリース料も必要となります。つまり、イギリスの洋上風力発電は、王室の事業のひとつになっていると言えるのです。
*1 2014年 GWEC:Global Wind Report 2014、2015
イギリスでは、2000年初頭から洋上風力発電拡大のための政策基盤の整備が行われ、「ラウンド1~3」の3段階に分けて開発が進められています。
まず「ラウンド1」では、海岸線に比較的近くかつ水深の浅い場所が開発海域に選ばれ、2003年から計画され数年前に開発が終わった「ラウンド2」では、さらに海域も広がりました。
2007年には、政府が世界中の風力発電企業の研究施設や製造拠点を集積し、風力発電事業を国の一大産業として発展させる新たな政策を打ち出しました。それによると『2020年までに7,000基以上の洋上風力発電を設置し、国内の全消費電力の約3分の1をまかなう』という大きな計画を掲げています。
そして現在開発中の「ラウンド3」は海岸線から離れ、より水深の深い場所へ移動しています。「ラウンド3」で進められている事業のひとつに、世界最大規模の洋上風力発電所「ロンドン・アレイ」があります。建設期間4年と約1,900億円もの資金が投入され、海上には175基もの風力発電機が設置されました。発電量は630MW、約50万世帯の電力をまかなっています。
さらに、リバプール市の沖合に計画されているウインドファーム*2「Burbo Bank Extension(バーボバンク エクステンション)」では、ブレード(羽根)の長さが80mにもなる超大型の風力発電機が32基作られ、2017年度中に運転を開始する予定です。ここに設置される発電機の出力8MWは、現在、1機あたりの発電能力としては世界最大と言われています。
ラウンド1から3までの開発が計画通りにすべて実行されれば、イギリスにおける洋上発電の設備容量は4,060MW、約320万世帯分に達する予定です。
*2 多数の風力タービンを1ヶ所に設置し発電する大規模な集合型風力発電所のこと
沖合にウインドファームの設置が進んでいるリバプール市
風力発電設置場所のイメージ
630MWを発電する洋上風力発電所「ロンドン・アレイ」© Simon Belcher / Alamy Stock Photo
現在、世界で実用化されている洋上風力発電機は、水深50m未満の比較的浅い海底に基礎を作って海上に風車を建てる「着床式」で、イギリスもこのタイプです。これ以上深い海底に建てる場合は、海に浮かべた風車で発電する「浮体式」が必要になりますが、こちらはまだ実証事業が中心です。日本の近海でも水深の浅い場所が少ないために、浮体式の洋上風力発電に取り組む必要があり、現在、福島沖や長崎の五島沖などで実証実験が行われています。国際エネルギー機関(IEA)では、洋上風力発電は引き続き世界で拡大が進み、今後2020年までの間、年率3割に近い伸びで設置されると予測しています。洋上風力発電産業は、重工業や機械、電気や建設、造船など、さまざまな産業が関連する自動車産業型の産業構造を持っています。拡大する市場は、新たな産業創出や雇用にもつながるのではと、イギリスのみならず世界が動き出しています。実際、イギリスの事業にも、日本の大手商社や重工業企業が関わっています。 洋上風力発電の可能性に注目しているのは欧州だけではなく、韓国は2019年までに250万kW、中国は2020年に3,000万kW、の導入目標を掲げています。日本はイギリスと同様、海岸線が長く、経済水域が広いので、環境省が公表した調査結果*3では、日本の洋上風力発電導入の素質は16億kWと、国内の発電設備容量の8倍もの可能性があるとしています。四方を海に囲まれた島国の強みを生かしたイギリスの洋上風力発電の事例は、日本にとっても示唆に富んでいます。
*3 2011年4月環境省が公表した「平成22年度 再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」
Word : Yayoi Minowa