世界の省エネ

8月

地球の熱を、エネルギーに。「火と氷の国」アイスランドの試み

  • アイスランド

地球の熱を、エネルギーに。「火と氷の国」アイスランドの試み

アイスランド南西部に位置する「スヴァルスエインギ地熱発電所」。「スヴァルスエインギ」とはアイスランド語で、「黒い牧草地」を意味する。

アイスランド各地には、地熱エリア内のハイキングコースなどがあり、観光客に人気。(写真:Stig Nygaard)

アイスランド各地には、地熱エリア内のハイキングコースなどがあり、観光客に人気。(写真:Stig Nygaard)

再生可能エネルギーだけで、自国すべての電力を

200以上の火山と国土の12%を占める氷河を持つアイスランドは「火と氷の国」と呼ばれ、自然の魅力にあふれる世界最北の国です。高緯度にありながらメキシコ暖流や偏西風の影響を受けるこの国は、最も寒さが厳しい1月でも平均気温-0.6℃前後と日本の秋田市並み。ヨーロッパ北部に比べて気候が穏やかです。
それでもやはり暖房需要は圧倒的に多く、冬季を中心にたくさんのエネルギーを消費します。一次エネルギーの利用量は石油換算で600万トン弱、ひとりあたりのエネルギー消費量は日本の5倍にも達します。 このようにたくさんのエネルギーを消費するアイスランドですが、実は、自国の再生可能エネルギーだけですべての電力需要をまかなっているのです*1。ヨーロッパの中でも順調な経済成長を遂げ、金融危機*2をいち早く脱却できた要因のひとつは、すべての電力を自前で確保できることだと言われています。電源の内訳は、7割が雨水や氷河の溶解水を水源とした水力発電、残りの3割が地熱発電。特に1970年代以降は、水力に加え、豊富な地熱の活用に積極的に取り組んできました。

発電に、熱利用に。
地球の熱を余すことなく

火山地帯の地下にあるマグマの熱で加熱された高温の蒸気を取り出し、タービンを回すことで電力を得るのが「地熱発電」。アイスランドでは、この地熱発電はもちろん、それ以外にも地熱を積極的に活用しています。暖房での温水活用は1930年代から行われており、現在ではほとんどの住宅・学校・公共施設で地熱による温水暖房が導入されています。また、暖房以外にも、農業用の温室や魚の養殖場・除雪・プール利用など社会の幅広いシーンで地熱が活用されており、同国での地熱利用のうち6割超は発電以外の用途が占めています。
200℃を超える高温の蒸気は、発電に。80℃前後のお湯は、地域暖房や温室暖房に。「地熱大国」と呼ばれるほど地熱が豊富なアイスランドでは、温度や湿度に合わせてその力を余すことなく利用しています。

アイスランドの地熱利用用途の内訳(出典:アイスランドエネルギー局「Orkustofnun」エネルギー統計2013より)
隣接するスヴァルスエインギ地熱発電所が汲み上げた地下熱水の排水を再利用した、温泉施設「ブルーラグーン」。(写真:cjuneau)

隣接するスヴァルスエインギ地熱発電所が汲み上げた地下熱水の排水を再利用した、温泉施設「ブルーラグーン」。(写真:cjuneau)

地熱発電所の排水がつくった、
新しい観光名所

アイスランドを訪れる観光客に人気なのが、「ブルーラグーン」という世界最大級の露天温泉。5,000㎡という広大な敷地を青い海洋水が満たしている様子は、まるでどこまでも広がる海を思わせます。
この「ブルーラグーン」は自然に湧出する温泉ではなく、地熱発電所の副産物。ここに隣接する「スヴァルスエインギ地熱発電所」が発電の際に取り込んだ地下熱水の排水が利用されています。温泉浴場としては1987年から一般公開され、今では年間70万人が訪れるアイスランド有数の観光スポットに成長しました。 ここで使われている海洋水はケイ素をはじめとするミネラルが豊富で、アトピーや湿疹などの皮膚疾患に効能があるとされています。さらに、海洋水の成分や、温泉の中で生育された藻から抽出した成分を利用して化粧品も開発。地熱は発電や熱利用だけでなく、その関連ビジネスまでも活況にしています。

自然と共生しながら
資源小国から地熱大国へ

地熱を積極的に利用するアイスランドですが、かつては日本と同じ資源小国でした。その転換の契機となったのは、1973年のオイルショック。国内に石炭や石油がなかったことから、火山国特有の豊富な地熱を活用する発電所の開発に力を入れることになりました。
同国では、地熱を積極的に利用するだけでなく、その際のCO2排出の低減にも配慮。その取り組みのひとつが、「CO2回収・貯留(CCS)」事業です。これは地熱発電におけるCO2の削減を目指して火山性ガスに含まれるCO2を分離し、地下の岩石中に固定化させるというもの。「地熱開発と自然の共存」を目指し、天然資源を使うだけでなく、なるべく環境に負荷をかけない利用方法を模索しています。 また、アイスランドの地熱発電を支えているタービン(発電機)の多くは日本製です。地熱の蒸気には鉄などを錆びさせる「腐食成分」が多く含まれていますが、それに耐える設備をつくるのに、日本の高い技術力が活かされています。 そんな関わりを持つ日本ですが、実はアイスランドを上回る世界3位の地熱資源保有国。しかしながら電力需要に占める地熱発電の割合はわずか0.3%*3と、まだまだアイスランドには遠く及びません。地熱は天候や季節によってその量が変動せず、一年を通して安定したエネルギー源として利用でき、国内外でも期待を集めています。地熱大国として先をいくアイスランドの経験が、日本の地熱開発に活かされる日が来るのも、そう遠い未来ではないのかもしれません。

*1 アイスランドエネルギー局「Orkustofnun」エネルギー統計(2014年)
*2 2008年にアイスランド共和国で発生した金融・経済危機と、2009年ギリシャの財政問題に端を発する債務危機が南欧・ユーロ圏・欧州へと広域に連鎖した一連の経済危機
*3 IEA「World Energy Outlook 2011」

アイスランドの多くの地熱発電所で使われている、日本製のタービン(発電機)。(写真:ThinkGeoEnergy)

アイスランドの多くの地熱発電所で使われている、日本製のタービン(発電機)。(写真:ThinkGeoEnergy)

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