知るほど、なるほど、好きになる 朝ごはん世界紀行

No.032モロッコ

ムセンメンとビッサーラ

モロッコ王国
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  • モロッコ王国モロッコ王国
  • アフリカ大陸の北西に位置し、北大西洋と地中海に面した国。国土の南側にはサハラ砂漠が広がっています。「青の街」と呼ばれる「シャウエン」は、家の壁から道まで青で染まる幻想的な景観の街。高台にある「スパニッシュ・モスク」前の広場は、シャウエン全体を見わたすことができる絶景スポットとして有名です。
モロッコの朝は、四角いクレープとそら豆のスープからはじまります

モロッコの朝は、四角いクレープとそら豆のスープからはじまります

  • 今回の旅のパートナー
  • モロッコ料理レストラン「Le Marrakech」
    オーナーシェフ 
    ジャズーリ・ムスタファさん
  • 日本人女性との結婚を機に、2007年に日本へ。モロッコ雑貨や食品の販売・輸入業を経て、2017年にモロッコ料理レストラン「Le Marrakech」を開店しました。「日本の人たちは皆優しい。日本のおだやかなところが好き」と話すムスタファさんとともに、モロッコの朝食をシャヒヤ タイバ(召し上がれ)♪
    「Le Marrakech」のホームページはこちら
モロッコ料理レストラン「Le Marrakech」オーナーシェフ ジャズーリ・ムスタファさん

モロッコの皆さんは、朝にどんなものを食べるんですか?

「ムセンメン」という四角いクレープと、そら豆のスープ「ビッサーラ」を食べます。

ムセンメンは、日本のやわらかいクレープとは食感が違って、表面がサクサクしているんです。 まず、生地の材料は薄力粉と「セモリナ粉」を使います。セモリナ粉とは小麦粉の一種で薄力粉よりも粗挽きなので、焼いたときサクサクした食感になるんですよ。

次につくり方ですが、材料をこねて薄く伸ばした生地にバターをたっぷり塗って、四角形になるようにパタパタと折りたたみます。何度も折りたたむことで層ができるので、さらにサクサク感が増すんですよ。そのあと、熱したフライパンにバターを溶かして、生地の両面がキツネ色になるまで焼きます。

焼き上がったムセンメンには、バターとたっぷりのはちみつをかけて食べるのがおすすめです。焼きたてのムセンメンに、まろやかなバターと甘いはちみつが溶けあってとってもおいしいんですよ。毎日食べても飽きないおいしさです。

モロッコでは、ムセンメンに使うバターやはちみつをはじめ、家庭で使う調味料のほとんどがモロッコ産なんですよ。モロッコは温暖な地中海性気候のおかげで農業が盛んなため、国産の食材が一年中お店に並びます。

バターとはちみつのいい香りで、朝から幸せな気分になりそうですね!ビッサーラはどんな料理ですか?

ビッサーラはそら豆をゆでてなめらかなペースト状にし、オリーブオイルとクミンパウダーをたっぷりかけた温かいスープです。スパイスの香りが食欲をそそり、ひとくち飲むだけで朝から体中がポカポカ温まりますよ。そら豆のまろやかな味わいの中にクミンのピリッとした風味が溶け込んでいて、モロッコの人たちにとって朝にぴったりな「目覚めのスープ」です。

ビッサーラは季節に関係なく一年中飲む定番のスープですが、中には気温の下がる冬にだけ開店するビッサーラ専門店もあります。朝から行列ができるほど人気で、私もモロッコに住んでいたころはよく通っていました。

また、ビッサーラを飲むときはデーツ(ナツメヤシ)との組み合わせがおすすめです。デーツを口に含んだまま、ビッサーラを飲むんです。デーツに含まれる食物繊維やビタミンも摂取できますよ。

そうそう、飲むといえば、モロッコの朝食には「アタイ」というドリンクも欠かせません。

デーツ(ナツメヤシ)(左)は栄養たっぷりで美容にも効果が期待できる食材

デーツ(ナツメヤシ)(左)は栄養たっぷりで美容にも効果が期待できる食材

アタイ?それはどんな飲み物ですか?

ミントやオレガノ、タイムなど数種類のハーブを入れて、茶葉と一緒に煮出したお茶です。モロッコは暑い上に乾燥しているので、スッキリしたハーブの香りを楽しめるお茶を一日中飲んでいますね。

アタイには、砂糖をたっぷり入れて飲むのが定番です。特に夏の暑い時期に飲むアタイは、暑さによって失われた水分とエネルギーの両方をチャージできます。甘味と、ハーブの清涼感、お茶の苦味が口の中全体に広がります。リラックスできて、まるで心まで潤うような気がしますね。

甘いアタイを飲んで、ホッとひと休み

甘いアタイを飲んで、ホッとひと休み

アタイを入れるときには、味を均一にするために、高く持ち上げたポットからグラスにお茶を注いでは、ポットに戻してまたグラスに注ぐ、というのを2、3回繰り返します。最後に、ミントなどのハーブをたっぷり詰めたグラスに、できるだけ高いところから注ぎます。空気を含ませながら注ぐことで、ミントの香りがよりいっそう際立ち、濃厚な味わいになるんですよ。

このユニークな注ぎ方は、「おもてなし」の意味も込められています。このような「お作法」があることや、おもてなしの心は、日本の茶道と似ているかもしれませんね。

高いところから器用にアタイを注ぐムスタファさん

高いところから器用にアタイを注ぐムスタファさん

まるで職人技ですね!ぜひアタイと合う食べ物を教えてください!

それなら、「バグリール」がおすすめです。バグリールは、素朴な味わいのパンケーキで、セモリナ粉とベーキングパウダー、水、塩を混ぜてこねた生地をフライパンで焼く、とってもシンプルな料理です。バグリールの特徴は表面に小さな穴がたくさんあいていること。その穴に染み込ませるように、「アルガンオイル」とはちみつをたっぷりかけて食べます。はちみつの甘さの中に感じる生地本来の味わいと、アタイのさわやかさは相性抜群なんですよ。

アルガンオイルは、「アルガン」という木に実る種子からとれるオイルです。アルガンはモロッコにしか生えないため、とっても貴重なんですよ。日本では髪のケアなど美容目的で使用されることが多いのですが、モロッコでは料理にもよく使います。アルガンオイルは、さらっとしていてほろ苦く、アイスクリームやサラダにかけるのがおすすめです。また、お肉を焼く前にアルガンオイルを少し塗っておくと、香ばしく焼き上がりますよ。ぜひ試してみてくださいね。

朝ごはんにはもちろん、おやつにもおすすめのバグリール(左)

朝ごはんにはもちろん、おやつにもおすすめのバグリール(左)

  • 日本でも有名なタジン鍋やクスクスは、モロッコ料理なんですよ。モロッコには、ベルベル人の食文化をベースにして、アラブや地中海など多彩な地域の食文化が融合した料理がたくさんあります。野菜をたっぷり使ったヘルシーな料理が多いので、日本の皆さんにもきっと気に入ってもらえると思います!ぜひ、召し上がってくださいね。それでは、マ サラーマ(さようなら)!
モロッコ料理レストラン「Le Marrakech」オーナーシェフ ジャズーリ・ムスタファさん